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ドグラ・マグラ(1) 夢野久作 |
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夢野久作の『ドグラ・マグラ』は私にとって典型的な積読本であった。角川文庫版の第34版で、発行年月日は平成8年10月10日となっている。まるまる十年書架に埋もれていた計算になる。十年以上も前のことなので、記憶は定かではないが、多分、竹本健治の『匣の中の失楽』を読んだ後で購入したのではなかったか? |
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つまり夢野久作の『ドグラ・マグラ』は本編のタイトルであると同時に作中作の標題でもあるという奇妙な二重構造のように見える。中井英夫の『虚無への供物』にも作中作の「凶鳥の黒影」に基づいて密室殺人が起きるという構成がみられる。こうした点だけをとってみても、『ドグラ・マグラ』という作品が後の探偵小説に及ぼした影響は計り知れないものがある。 しかし、『虚無への供物』の中で描かれる「凶鳥の黒影」は明らかに作中作であるのに対し、『ドグラ・マグラ』における『ドグラ・マグラ』は最初の一行からして本編と完全に一致しているのである。作中作の『ドグラ・マグラ』は「その若い学生は尋常一年生から高等学校を卒業して、当大学に入学するまで、ズッと首席で一貫して来た秀才なのですが、非常な探偵小説好きで、将来の探偵小説は心理学と、精神分析と、精神科学方面にありと信じました結果、精神に異常を呈しましたものらしく、自分自身である幻覚錯覚に囚われた一つの驚くべき惨劇を演出しました。そうしてこの精神病科病室に収容されると間もなく、自分自身をモデルにした一つの戦慄的な物語を書いてみたくなったものらしいのです。……しかもその小説の構想は前に申しました通り、極めて複雑精密なものでありますにもかかわらず、大体の本筋というのは驚くべき簡単なものなのです。つまりその青年が、正木先生と私とのために、この病室に幽閉められて、想像もおよばない恐ろしい精神科学の実験を受けている苦しみを詳細に描写したものに過ぎないのですが」と若林博士は説明しているが、本編のストーリーはまさにその通りに進行して行く。 これに続く部分で、若林博士は「このドグラ・マグラ物語の中に記述されております問題というものは皆、一つ残らず、常識で否定できない、わかり易い、興味深い事柄でありますと同時に、常識以上の常識、科学以上の科学ともいうべき深遠な心理の現われを基礎とした事実ばかりでございます。たとえば、 ……『精神病院はこの世の活地獄』という事実を痛切に唄いあらわした阿呆陀羅経(あほだらきょう)の文句…… ……『世界の人間は一人残らず精神病者』という事実を立証する精神科学者の談話筆記…… ……胎児を主人公とする万有進化の大悪夢に関する学術論文…… ……『脳髄は一種の電話交換局に過ぎない』と喝破した精神病患者の演説記録…… ……冗談半分に書いたような遺言書…… ……唐時代の名工が描いた死美人の腐敗画像…… ……その腐敗美人の生前に生写しともいうべき現代の美少女に恋い慕われた一人の美青年が、無意識のうちに犯した残虐、不倫、見るに堪えない傷害、殺人事件の調査書類… と作中作『ドグラ・マグラ』の内容をざっと解説しているが、本編の『ドグラ・マグラ』の中に 「キチガイ地獄外道祭文―― 一名、狂人の暗黒時代――」 面黒楼万児作歌 「地球表面は狂人の一大解放治療場」九州大国大学精神病科教室 正木敬之氏談 「絶対探偵小説 脳髄は物を考えるところにあらず」=正木博士の学位論文内容= 「胎児の夢」 「空前絶後の遺書」−大正十五年十月十九日夜―キチガイ博士手記 「◆心理遺伝付録◆……各種実験例」 その一 呉一郎の発作顛末――W氏の手記による―― 第一回の発作の聴取記録 第二回の発作の聴取記録 その◆第二参考としての青黛山月如月寺縁起 等々が手記や論文や新聞記事や映像記録や縁起など様々な文章が多様な文体で記されている。 |
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