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医 龍(4)
 その頃、北洋病院では五代明代の様態が急変し、心停止を起こしていた。そこに落雷による停電が追い討ちをかける。伊集院が懸命に心臓マッサージをするが心拍が戻らない。そこに外山も駆け付けるが、停電のためエレベータが動かず、手術室への搬送ができない。伊集院はICUでの緊急オペを外山に進言する。ICU内はかろうじて自家発電で医療機器は動作可能だった。朝田を呼ぼうとする看護士を「朝田なんか不要ねえ!」とどなりつけ、外山の執刀で緊急開胸が行われた。しかし心臓内部からの出血が止まらず、伊集院は内膜からの出血だと外側からのリペアは無理だと外山に進言。大動脈を切開すると、外山が置換した人工弁の置換部位からの出血が認められた。「人工弁を再置換しないと出血は止められません」と言う伊集院。人工弁の置換の際、石塊化した大動脈の弁鱗を無理に剥離したため、大動脈に傷を付けてしまっていたのだ。朝田とオペの速さを競おうとするあまりの外山のミスであった。「俺の手術ミス?」と呆然とする外山。

 そこで非常電源までが切れICUは真っ暗に。無停電電源が作動を始めるが30分程しかもたないと院長の善田は言う。MEの野村が冷静にバッテリー搭載器機はバッテリーに切り替え、不要な器機の電源を切りに走る。呆然としたまま手術器具を取り落とす外山。そこへ右手に怪我をした朝田が現れる。その患者はお前の患者だ。お前に命を託した患者だ。だからお前には責任がある。「そこから逃げるな!」と外山を一括する。ようやく自分を取り戻した外山は猛烈なスピードで大動脈弁の再置換を開始する。しかし、無停電電源も切れてしまう。万事休すである。科学技術の粋を極めた現代医学も停電の前では為す術がない。動いているのはバッテリー駆動の一部の器機のみである。
 患部が急に明るくなる。院長の善田が懐中電灯を患部に当て「外山先生」と声をかける。看護師も懐中電灯をかざし「外山先生」と呼びかける。「俺がボリュームを管理する」と朝田が麻酔医のポジションに就く。吸引機も使えず、やがてPCPSのバッテリーも切れてしまう。PCPS(経皮的心肺補助装置)とは、主に急性期の心肺補助に使用される人工心肺装置で、大腿動静脈から送脱血を行う装置である。手術室で使用される人工心肺装置の小型版と言えば分かり易いだろうか。主にICUなどに設置されている。『救命病棟24時』で小島医師の婚約者を救えなかったのはこのPCPSが故障で利用できなかったためである。

 「手動に切り替えろ」という朝田の言葉で懸命にPCPSのハンドルを回し続ける野村。院長の善田をはじめICUにいる全員がチーム一丸となり、再弁置換が終了する。心臓が動き始めた。が、外山は動き始めた心臓の触診を始める。「胸が痛む」という明代の言葉を思い出したからだ。そして、右冠動脈狭窄を発見し朝田に意見を求める。外山は迷わずバイパス手術を決断し、伊集院にグラフト採取を命じる。この暗闇の中でのバイパス手術は危険だという伊集院に「この患者は高齢だ。心筋梗塞を起こしたらまず助からないだろう。この人を助けるには今バイパス手術をするしかないんだ」と外山は言い切る。暗闇の中でのバイパス手術が始まった。藤吉も現れ野村に替わりPCPSを手動で回し始める。そして手術は無事成功した。周囲の仲間を見回す富山。歓喜する仲間たち。

 翌朝、ICUでは昭代の夫が伊集院に、何故再手術になんかなったのかと詰め寄っている。そこに外山が現れ土下座をして「私のミスです」と詫びる。一回目の処置が雑だったために患部から出血し再手術になったと告白し「全て私の責任です」と深々と頭を下げる外山。その後、屋上へ朝田追った外山は「あんたの言ってたことがわかったよ。外科医も術野だけを診てちゃいけない。患者を診るってことを、な」と言う。そして「俺をチームに入れろ。第一助手でも、第二でも第三でもいい。俺の手技をもっと見てくれ。そしたら、きっと執刀医を譲りたくなる」と続ける。それを聞いた朝田の顔に初めて笑みが浮ぶ。こいつなら俺の代わりが務まるという朝田の喜びが伝わって来る。「それにまたあいつらとオペがしたい」という外山の言葉に、朝田は「そうか」と笑顔で頷く。チーム北洋のメンバーがまたひとり増えた。腕は超一流でも心は三流だった医者が、朝田に一歩近づいたのだ。
 『Dr.コトー診療所2006』で綾香の主治医である鳴海医師がコトーに向かって「医者が人である以上オペに絶対はない」と言っていた言葉を思い出す。仕事によってはミスを修正することが可能なものと、そうでないものとがある。養老猛氏は総じて理系のミスは致命的となるが、文系のミスは修正が利くといった旨のことを書いていたが、確かにそういう傾向はあるように思う。中には弁護士の弁護ミスで被告人が死刑になるということも考えられなくはないが、医療ミスに比べればものの数にも入らないだろう。
 2005年の読売新聞に「治療巡るトラブルの7割、実際に医療ミスと鑑定」というショッキングな記事が掲載されていた。「治療結果の説明を納得できないとする患者側と医療機関の間でトラブルになったケースのうち、7割以上で、実際に医師や看護師による医療ミスと鑑定されたことが、ベテラン医師らでつくる「医療事故調査会」(代表世話人=森功・医療法人医真会理事長)のまとめで分かった」というものである。最近は「院内暴力」という言葉を良く耳にするが、こうした実体があるのでは患者や家族が怒るのも止む終えないのではなかろうかとも思う。これは待ち時間が長いといって暴れたり、医療費を払わないことを正当化することとは次元が違う。
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 鳴海医師が言うように「医者が人である以上オペに絶対はない」のだから、オペにはミスは付き物とも言える。問題はこうしたミスを隠蔽しようとする病院や医者の体質にある。先の読売新聞の記事の7割という数字は「治療結果の説明を納得できないとする患者側と医療機関の間でトラブルになったケース」10年分733件を鑑定した結果だそうだが、「治療結果の説明を納得できないとする患者」はまだまだ少数であることは間違いがない。医学の知識を持たない患者にとって医者の説明に反論することは難しいからである。『医龍2』の第3話で取上げられた「ガーゼオーマ」のように明らかな証拠が残っている場合ならともかく、金も知識もある病院や医者を相手に裁判を起こすことができる患者の方が少数であることは間違いない。しかし、こうした調査結果が出ている以上、患者の側も泣き寝入りをするケースは徐々にではあるが減少してゆくだろう。
 日本人は争いごとを好まない民族であり、裁判で勝ってお金が手に入っても患者が生き返るわけではないと諦める人も少なくないと聞く。ただ、医療ミスを犯した医師を放置しておくことは第二・第三の犠牲者を生み出すことに繋がる可能性が高いのだから、裁判を起こすことは新たな命の危機を救うことになることを自覚する必要があるだろう。
 話を戻そう。外山は再手術になった経緯を患者とその夫にきちんと説明し、土下座をして詫びる。致命的なミスになっていたらともかく、医者に誠心誠意詫びられて、その謝罪を受け入れない患者は少ないはずである。しかし、自らのミスを認める医者は少ないのが現状のようだ。良い医者の条件として「カルテのコピーを渡す」ことが挙げられている。自分の処置に自信があればカルテのコピーを患者に渡しても何ら問題はないはずである。処置に自信がなかったりやましさがある医師は絶対にコピーを渡さない。司直の手が入る前にカルテの改竄までする病院や医師までいる始末である。医師法で医者は患者を選べないが、患者は自由に医者や病院を選ぶことができるのである。『医龍』を見ている人なら朝田と野口のどちらに診てもらうかは歴然としている。それは朝田と野口という医者をよく知っているからである。現実問題でも同じであろう。自分を診療する医者がどんな医者なのかを見きわめる努力を忘れてはならない。
 外山がチームに加わり、残るは松平と小高の二人になった。第7話では松平の過去が明らかになるようだ。これまで松平は過去の医療ミスで北洋に飛ばされ、それ以来一度もメスを握っていないということしか明かされてはない。しかし、第6話で「スーパードクター」と呼ばれていたことを始めて口にした松平は、ラストシーンでそれが嘘ではなかったことが分かる。松平はかつて消化器外科のエースで生体肝移植のスペシャリストだったようだ。そんな彼が何故手術ミスを犯してしまったのか?興味津々である。
 外山を諭す松平のこれまでの言動から単純なミスとは考えずらい。彼は良識ある医者のようである。ある意味、麻酔医の荒瀬と共通したところがあるように感じられる。松平も荒瀬も浴びるように酒を飲んでいる。松平に到っては職場でも酒を飲み「アル中」とまで言われている。荒瀬には償いきれない過去があった。それを忘れるために酒を飲み、それを忘れないために自分の技術を金で売るようになっていた。技術を金で売っていたにせよ荒瀬が医者であり続けたのに対し、松平は医者であることを放棄しているように見える。職場内での飲酒はそれを象徴している。しかし、それでも彼は病院を辞められずにいるのである。何故?
 粋がる外山に「お前は朝田に勝てっこない」と正論を言う反面で「ベンタールなんて難しい手術が成功するわけがない」と否定的な言葉を朝田に呟いていた松平だが、ベンタールの無輸血オペが始まると、食い入るようにモニターを見ながらこぶしを強く握りしめ、成功の瞬間にはそのこぶしを何度も小さく振っていた。喜んでいたのか、悔しがっていたのかは定かではないが、どちらにせよこうした松平の行為を振り返って見ると、おそらく彼は自分の腕を過信して難しいオペに挑み、そこでミスをしてしまったか、あるいは内科的治療で充分な患者に強引なオペ(生体肝移植)を強行してしまったのかのいずれかではないかと推測している。第7話で松平はオペを拒み続けるようだが、患者の命を前にして松平は再び医者に戻ることができるのだろうか?外山という血管外科のエースに加えて生体肝移植のスペシャリストがチームに加われば、朝田の心臓移植のためのチーム作りはまた一歩前進することになるのだが……最後に小高七海が加わり、北洋で心臓移植が行われることになるのだろうか…?
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