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医 龍(10)
 タイムリミットまで後15分。移植は進んでいた。残り18分で朝田は肺動脈のリスタール吻合に入った。タイムリミットまで30秒。「ピギーバック」が終了する。「フォローダウン。遮断解除。バックアップ!」という朝田の声が飛ぶ。人工心肺から離脱。タイムリミットまで5秒。雄太の心臓が動き始めた。「成功だ!」チーム全員が歓声を上げる。
 しかし、突然「心房細動」が起きる。ドラマでは「VD」と言っていたが、調べても見つからなかった。「心房細動」は”atrial fibrillation”略してAFといい、「心房細動」は” atrial flutter”略してAFと言われている。また「心室細動」は”ventricular fibrillation”略してVFと言われることが一般的である。いずれにしても移植した心臓の心房が激しく痙攣を起こしていた。朝田は電気的除細動を行うが一向に回復しない。「もう一度DC20ジュール!」と言った後、朝田は心臓の触診を始めた。時間が刻々と流れて行く。
 そして朝田は「もう一度心臓を止める」と言い出すのである。「野村、クライオを用意できるか?」と野村に確認した朝田は「クライオワーブレーション」を行うと宣言。「クライオ」とは正式には「クライオポンプ」のことであり、気体分子を極低温面に凝縮、吸着させて捕捉する気体ため込み式真空ポンプである。ヘリウムガスを冷媒として用い、ポンプ内部に極低温面(20K以下)を作り患部を冷凍する装置と考えていい。朝田は細動を引き起こしているフォーカスを特定し、患部を冷凍することで心房の細動を抑えようと考えていた。「フォーカスを特定できるのかよ?」と言う富山に、触診し「手に伝わる収縮がそこだけ違った」と答える。バチスタ手術の編成部位の特定も朝田は触診で行っていたことを思い出して欲しい。まさにゴッドハンドである。
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 迷わず心房にメスを入れクライオをそこから挿入し患部を冷凍。「フォロー解除。バックアップ」と朝田が言い、人工心肺が止まると再び心臓が正常に動き始めた。「奇跡だ!!」と見学室の藤吉は叫ぶ。しかし、隣にいた霧島は冷静に「忘れたよ。0.1%の可能性を100%にする男。朝田龍太郎」と呟くのである。「オペ終了」と朝田は機具を置く。そして、「よく頑張った!」と雄太に声をかけるのである。ここにも朝田の患者に対する深い愛情の念が感じられた。

 野口のパーティ会場にもオペ成功の連絡が片岡の元に届く。隣の善田とシャンパングラスを合わせた後、ステージ上の野口にグラスを掲げ成功の合図を送る。笑顔満面の野口だったが、次の瞬間には背後のスクリーンに野口がこれまでに行ってきた悪行の数々が映し出されていた。善田が「グッバイ」と呟くシーンが印象的だった。これこそが善田の隠し玉だったのだ。
 一方明真では鬼頭が霧島がアメリカから持ってきた人口心臓の移植に成功していた。元々は朝田が雄太の為に霧島に依頼していたものだったが、結果的に山野の命も救うことになったのである。鬼頭は「心臓移植には限界がある」と言い。「これが神の領域」だと豪語する。日本では保険の適用にならず費用も膨大である。それを自分が率先して実践し国に認めさせると鬼頭はきっぱりと言い切ったのである。
 明真に戻った野口はゴールドマンズ・ブラザーズの会長と「瑕疵条項(かしじょうこう)」のため管理者として不適格と判断された野口と契約することはできないため、今回の融資契約は第三者に売却したと告げられていた。「瑕疵条項」とは正確には「瑕疵担保条項」のことで、買ったものに、買い主が予想もできないような隠れた瑕疵(欠陥)があった場合、買い主が、売り主に契約解除や損害賠償を請求することを認めている、民法570条の売買に関する規定である。

 そしてそれを買収したのはイーグルパートナーズの片岡だった。これで明真は片岡のものとなる。片岡は鬼頭に明真での最先端医療を任せ、地方医療は善田に任せると言い、「融資のお金はどうするの?」という鬼頭の質問にも「私は今の日本の制度に問題があると思う。患者を第一に考える医者が報われないのは、この国の制度にも問題がある」と言う。「だから…?」という鬼頭の問いに「だから、患者からではなく国からお金を取る。国の医療政策を変えて見せます。必ずやってみせます」と答え、野口の写真を取り、父親の写真と置き換えるのである。このシーンは片岡が父親の意思を継ぐのだという固い決意の表れであった。

 『医龍』では最早過去の問題となっていた「医局制度問題」を取上げ、医療監修者たちからも時代に合わないという批判を受けていた。『医龍』にはコミックの原作があったので、やむをえなかったのだろうが、オリジナル脚本の『医龍2』では一歩も二歩も踏み込んだ医療問題を取上げていた。私たちが当たり前と思い込んでいる現代の日本の医療制度にはまだまだ解決しなければならない問題が山積している。今問題になっている「薬害肝炎」の問題はそのほんのひとつに過ぎないということを忘れてはいけないと思う。
 これだけ医療技術の進んだ国にありながら心臓移植が年に数例しか行われていないこともそのひとつである。これは日本人が「脳死」問題を真剣に考えていないという無理解から起きている現象のような気がしている。「脳死」と「植物状態」の区別もつかない人間が「脳死」賛成と言ったところで絵に描いた餅である。兎に角「脳死」という人の死のあり方をもう一度考えることで、人とは何か生きるとは何かということも見えてくるのではなかろうか?
 海堂尊氏の『チームバチスタの栄光』の中で桐生助教授が「小児心臓移植は、日本では対象外です。だから一握りの恵まれた子供が米国で移植手術を目指す。メディアはそうした患者をまるでスターのように扱います。善意の人たちから寄付を集め、美談に仕立て上げる。(中略)その一方で、文化人や倫理学者に発言させ、子供の臓器移植を倫理的、あるいは感情的に問題視させる。日本で子供の臓器移植を推進しようとすると足を引っ張る。米国では美談として支援し、日本では問題視する。同じ心臓移植なのに、おかしいと思いませんか」と語る箇所があるが、まさにその通りだと思う。

 『医龍2』というドラマは大人の心臓を子供に移植するという手法を取ったが、現実問題としてはほとんど不可能なオペである。子供の心臓は子供からという米国方式を取らないと、桐生医師が言うように助かる命まで助けられなくなるのである。片岡が最後に語るように「この国の制度にも問題がある」ことは間違いない。「薬害肝炎」問題の処理の仕方ひとつ見ても、政治家は勿論だが、それ以上に厚生労働省の役人たちに腹が立つ。こんな役人たちに大切な年金や医療を任せられるはずがないのだ。そして、様々な問題提起を私たちに残して『医龍2』はフィナーレを迎えた。
 松平・小高・戸山・野村は再び北洋に戻り、朝田は再びチームを離れアメリカに渡った。彼の前に立っていた白衣の医師は一体だれだったのだろうか?果たしてパート3はあるのだろうか?ボロボロになった野口もアメリカにいたようなので、もしかするとパート3の伏線になっているのかも知れないと思っている。フジTVには是非パート3の放映を考えて欲しいと願って止まない。『白い巨塔』のように年末特番をきたしていたが、バラエティ番組のオンパレードになっていたことは残念だった。

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